中田英寿の名シーン

2006年6月22日。
ドイツのピッチで寝転び空を仰ぐ中田英寿の目は、十数キロを走りぬいた身体よりも赤くなっていた。
引退の時を迎えたことで、抑えきれない感情が溢れ出す。
サッカーが好きだ―――幼い頃の純粋な気持ちが蘇える。
それは、今までどんなことがあっても人前で涙を見せなかった彼からは、決して想像できない姿だった。
自分に付きまとうイメージのせいで、素直な気持ちを表現することが制限されていた。
だから、ゴールを決めても、試合後のインタビューでも、彼の表情から笑顔がこぼれることはなかった。
そしてそれは更なる悪循環を生み、人々の中に、もう一人の中田英寿が完成してしまった。
後に自身の公式HP上で引退を発表。
舞台を下りるにあたり綴った、彼の言葉。
応援してくれた人たちへの感謝、誤解の釈明、数々の葛藤、そして、サッカーを愛する気持ち。
そのどれもが本心だった。
意地でも倒れず、絶対に感情を表には出さない・・・。
分厚い仮面を脱いだ中田英寿から、目が離せなかった。